Saucy Dog

LINER NOTES

「サニーボトル」6th Mini Album
  • 1.404. NOT FOR ME

    高らかに鳴り響くマーチング・ドラムが作品の幕開けを告げるオープニングナンバー。「スニーカー」を履き替えるように終わった恋を振り切って前に進もうとする主人公の姿はとても雄々しいが、「君を好きだった僕はもういない」と言っていたフレーズが最後の最後に「僕を好きだった君はもういない」に変わるあたり、やはりどうしても拭い去れない切なさが漂う。まるで自分をけしかけるように、あるいは心にもない言葉を吐き捨てるように歌われる石原のヴォーカルやサビのアッパーなメロディやコーラスも、その勢いやパワフルさとは裏腹にそうせずにはいられない心情をダイレクトに伝えてくる。曲名の「404」は当該ページが存在しないことを告げるウェブサイトのエラーコード。僕にとっては君は存在しないも同然だ、とこの曲の主人公は自分に言い聞かせているのかもしれない。

  • 2. あぁ、もう。

    男女それぞれの視点からの片想いの心情が描かれる、柔らかな印象のポップチューン。想いが募り、ちょっとした出来事で右往左往してしまう。どうにか前に進みたいけど、でも同時に今の状態に居心地の良さを感じている自分もいる――「真夜中の通話で⼀時間半/でもLINEは渋滞」とか「抜け出せない⽑布に包まるみたいに/ぬくぬくしてんだ、優しさのベットで」という表現で片想いならではの心の動きを浮かび上がらせる歌詞が見事だ。サウンド的にはとても優しく心を撫でるように聞こえてくるギターのストロークがメインだが、楽曲のエンジンとなっているのはメロディアスなベースライン。ときに繊細に、ときにどっしりと、さまざまな表情を見せながら進む低音が、シンプルなアレンジに色彩を加えている。

  • 3. 君ト餃子

    インパクトのある曲名からはどんな楽曲か想像もつかないが、聴いてみると囁くようなヴォーカルのニュアンスとアコースティックな手触りのサウンドにますます驚く。そして楽曲はそこから迫力のあるバンドサウンドへと展開。スケール感のあるドラムと軽やかなギターフレーズが鮮やかなコントラストを描き出し、石原の柔らかな歌を後押しする。きっとこの曲の主人公は遠距離恋愛をしているのだろう、遠い空に向かって祈るような感じが、この曲のヴォーカルからは伝わってくる。辛いことやイヤなことも「包んで 焼いて ⾷べちゃいな」と曲名にある「餃子」にたとえてしまう優しいユーモアが、この曲の「君」と同じように疲れたり荒んだりした僕たちの心をほっこりさせてくれる、とても愛おしい曲だ。

  • 4. 優しさに溢れた世界で

    週末の朝を彩るフジテレビ「めざましどようび」のテーマソングとして書き下ろされた楽曲。冒頭から聞こえてくる「今⽇の⿂座は最下位だね」というフレーズが、きっとこれを聴く誰もが経験したことのある朝の風景を浮かび上がらせる。テレビの占いに一喜一憂したり、休日を大事な人とのんびり過ごしたり、そんな当たり前の日々の風景を描きながら、そんな毎日を「はじまりは僕たち/いつだってゼロから/どこにも⾏けないし/どこまでだって⾏けるのさ!」と全力で肯定する、優しい応援ソングだ。もちろんそこには常に前進を続けるバンド自身の姿も重なっているだろう。サウシーの王道といえる3ピースのアンサンブルとドラマティックな展開が聴きどころで、とくに後半から終盤にかけてぐいぐいと気持ちを引っ張り上げるようなは歌詞のテーマとも相まってとても頼もしく響いてくる。

  • 5.魔法にかけられて

    数々の恋の歌を生み出してきたサウシーだが、この「魔法にかけられて」は恋というよりも「愛」の歌だと思う。落ち着いた曲調に、流れるようなさりげないメロディによって引き立てられた石原の声が歌うのは、本当に何気なく進んでいく日常の風景だ。会えないときはテレビ電話で、週末は部屋でまったりと。積み重ねられていくふたりの時間は、他人から見ればどうということはないものかもしれない。でも、〈⾼級な店じゃなくても 綺麗な夜景があっても/「ふたりじゃなきゃダメ。」〉というとおり、彼らにとってはそうやって「ふたり」でいることが何よりも大切なのだ。その大切さを噛み締めるような〈愛してるよ、おやすみ。〉という言葉は、明日へと続く約束でもある。引き算の美学をそのまま音にしたようなせとのドラムが美しい。

  • 6. ノンフィクション

    切なかったり痛かったり甘酸っぱかったりする恋愛の風景を描く楽曲と並んで、ふと弱気になってしまう心を奮い立たせて背中を押してくれるメッセージソングもまたSaucy Dogの真骨頂。この「ノンフィクション」はまさにそうした楽曲の最新型だ。メッセージを伝えるために、アレンジも緻密に施されている。カントリーっぽい跳ねたリズムと弾むようなギターのストロークが基本になっているが、よくよく聴けばさりげなく入ってくるドラムのタムやコーラスによって表情を変えていくサウンドが、歌詞に込められた気分をよりヴィヴィッドに描き出していることがわかるだろう。〈乾いた場所は誰も知らない〉という最後のフレーズは「雀ノ欠伸」の〈僕もそうだよ〉と同じように、バンドの存在をグッと身近に引き寄せてくれる。

  • 7. Be yourself

    バンド初のアリーナツアーと同じタイトルが付けられた、Saucy Dogからすべてのファンに贈られる新たなテーマソング。ザクザクとしたギターと大ぶりのリズム、まさにアリーナ級の大きなライブ会場に映えるアンセムだ。〈君は君らしくいてよ〉というメッセージもきわめてシンプル。これまで誰も言ってこなかったようなことではもちろんないが、これを説得力を持って伝えるには、ちゃんと自分らしく前に進んでいる姿を見せなければならない。今のSaucy Dogだからこそこれが歌えたということなのだと思う。おそらくライブでひとつになることをイメージして作られたのだろう、手拍子やコーラスがこの曲ではとても重要な役割を担っている。今はまだちょっと難しいけど、いつかライブ会場で大声で〈間違えていこう!〉って歌いたい。

  • 8. ころもがえ

    ライブでもアコースティックのコーナーが定番化したことで楽曲としての存在感がより増している、恒例のせとゆいか作詞・歌唱のボーナストラック。今回も優しいアコースティックギターの音色にのせて、柔らかいせとの声が気持ちよくミニアルバムの終わりを告げてくれている。ちょうど衣替えの季節、恋の終わりを役目を終えた洋服に重ねる切ない歌だが、不思議と心が温かくなるような感じがするのは、音の手触りのおかげか、それとも別れを告げる歌詞の裏側にまだ完全になくなったわけではない愛を感じるからか。いずれにしても、この曲もきっとたくさんの人に愛されていくのだろう。せとの歌うメロディに寄り添うように聞こえてくる石原の丁寧なコーラスもとてもいい。