LINER NOTES

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01.スパイス
『映画クレヨンしんちゃん超華麗!灼熱のカスカベダンサーズ』の主題歌として書き下ろされたこの「スパイス」が今作のオープニングナンバーとなった。オファーを受けて「自分たちの未来にもつながるような楽しくて前向きな曲を書きたい」という気持ちで書き始めたという楽曲は、どこかノスタルジックな色合いを帯びたあたたかなサウンドが広がる、優しさと強さを兼ね備えたものになった。『クレヨンしんちゃん』の映画は子どもはもちろん大人にも深く刺さるものばかりだが、この曲もまた、〈大人になんかなりたくはない/そう思うのはなった後だな〉というフレーズが物語るように大人になった今だからこそ、かつての純粋さやワクワクを忘れまいと願う歌だ。そのワクワクを象徴するようなアコースティックギターの響きがとても心地よい。
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02.エデンの部屋
石原慎也が夢の中で浮かんだメロディを落とし込んで作り上げた、とてもまっすぐなラブソング。ただ、ラブソングではあるが、むしろこの曲が描こうとしているのは、ドラマティックな恋愛というよりも、2人で紡いでいく日常の風景だ。〈“来年も再来年も/きっと僕が君の横に”〉と神様に願ったり、将来は〈星を探しに富良野まで〉行きたいと夢を抱いたり。ここに歌われる願いや夢は、決して大それたものではないどころか、場合によっては平凡だと言われてしまうようなものかもしれない。だが、そんなささやかな気持ちを一緒に積み重ねて形作っていく人生は何よりも愛おしくて尊いのだと、サウシーは歌う。そんな日常に向けられた眼差しはサウシーの音楽に対する姿勢そのものであることを、〈君の鼻歌になりたい〉という1行が物語っている。
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03.オレンジ
「第105回全国高校ラグビー大会」に向けて作られたエールソング。スポーツに懸ける高校生に届ける楽曲という意味では全国高校サッカー選手権大会の応援歌となった「現在を生きるのだ。」を連想する人も多いだろう。もちろん楽曲のメッセージとしてもあの曲と通じる部分はあるが、とてもシリアスなムードを帯びていた「現在を生きるのだ。」に対して、この「オレンジ」はとてもアッパーで明るい。せとゆいかのドラムも秋澤和貴のベースも自由奔放に弾けるバンドサウンドはとてもパワフルで、悔しさや痛みを乗り越え、家族や友達の期待を背負ってゴールラインに向かってひた走る高校生ラガーマンの姿をポジティブに後押しする。〈可能性(あした)を掴む/今を繋ぐ/地図にない未来へと〉という最後の歌詞の確信に満ちた響きがとても頼もしい。
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04.まっさら
ラジオアプリ「radiko」の15周年を記念して、ラジオのリスナーをイメージして書かれた楽曲。冬の空気が全編にわたって流れているような、とても澄んだサウンドが、胸の隙間にすっと入り込んで心を温めてくれるような、とても柔らかな曲だ。ラジオから流れてくる〈顔も知らない誰かのリクエスト〉にこの世界でともに生きている誰かを感じるように、あるいは今ではすっかり会わなくなった〈友と呼べるのかも曖昧な〉のことをぼんやり思い浮かべるように、そこはかとない人と時間のつながりを感じながら朝の支度をする主人公の姿は、毎日あくせく生きている我々の気持ちをスッと軽くしてくれるような気がする。〈運命も宿命もない/前世や来世にも意味なんかはない〉なんて言い切れるほど強くはないけれど、それぐらいの心持ちで「まっさら」な日々を歩いていけたらいいなと思う。
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05.ワンダーランド
ゆったりとしたダブっぽいリズムとループ感のあるサウンドに身を任せながら歌われる、取り留めのない2人の風景。「冷蔵庫」とか「寝巻き」とか「もう、さっさとお風呂に入ったら?」とか「オムライス」とか、生活感丸出しの言葉が連なる歌詞が登場人物の性格も生き方も浮き彫りにしていく感じがとてもおもしろいし、この決して派手でも煌びやかでもない日常感は、『カレーライス』というミニアルバムのタイトルともリンクする部分がある。そういう意味では今作においてとても重要な楽曲だといっていいかもしれない。そして何より重要なのは、そんな普通の日常を「ワンダーランド」、つまり「不思議の国」と呼ぼうという意思だ。ここには、このミニアルバムで石原がどこに目を向け、何を歌おうとしていたのかのヒントがある。
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06.奇跡を待ってたって
映画『恋に至る病』の主題歌として書かれ、10月に配信リリースされたこの「奇跡を待ってたって」は、今作のなかでも少し特異な立ち位置にいる楽曲かもしれない。映画サイドからのオファーを受けた石原は、作品の世界に没入し、とことん寄り添ってこの楽曲を書き上げたという。その成果がいかなるものかはぜひ映画を観てもらえればと思うが、確かに、とくに曲の前半、音のひとつひとつの繊細さも、メロディのナイーヴさも、ともすれば消え入りそうな歌声の質感も、いつものSaucy Dogとは違う感じがする。そこから楽曲が後半に進むに従って少しずつサウシーが戻ってくるような感覚を覚えるのはそのためだろう。最後のサビでバンドのサウンドがやむなか石原が叫ぶ〈生きたいだけ〉のフレーズと、その後に入ってくるせとのコーラスに、なんだか救われたような気持ちになる。
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07.犬も喰わない
ジャキジャキと刻まれるギターとともに始まり、3人全員で歌うサビへ。ミニアルバム本編のラストを飾るこの曲は、他ならぬSaucy Dog自身を歌った楽曲である。こんなにもストレートに自分たちのことを綴った楽曲は今までなかった。喧嘩したりムカついたりみたいなことも含めて開けっぴろげに歌ってしまう歌詞も正直でいいし、何より演奏している3人がとても楽しそうなのがいい。〈あのね、なんかね最近心がざわついてて/1番大事な事忘れてないかい?〉という始まりのフレーズを最後の〈されど俺らで/見えた幸せ/最期まで〉という言葉で軽やかに乗り越えていく感じが、今のサウシーのタフさを物語っているのかもしれない。Saucy Dogがこのメンバーで歩み始めて2026年で10年。その間いろいろあったよな、と笑いながら音を鳴らしている3人の姿が目に浮かんでくるようだ。
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08.愛しい日々よbonus track
CDのみに収録される恒例のボーナストラック。今回せとが歌うのは、うまくいかないことも嫌なこともいろいろある毎日に向けられた「日常へのラブソング」だ。今まで同様、どんな曲を書いて歌うかをメンバー内で擦り合わせたりはしていないと思うのだが、不思議なことにというか、やはりバンドだなあというか、〈まあ人生そんなもん/些細で幸せな日々よ!〉というこの曲のテーマは、ミニアルバム全体を通して石原が歌っていることと見事にシンクロしている。もちろんたまたまという可能性もあるが、きっと秋澤も含めた3人の見ているものが今まで以上に近しくなっているのだろうなと思うとなんだか心があたたかくなるので、そういうことにしておこう。せとらしい優しいメロディと歌声が、ミニアルバム全体を包み込むように響く。
Text by 小川智宏